ホームページなるものを、近所の学生さんに手伝ってもらって、こしらえてみた。何を書けばよいのか、さっぱり分からない。とりあえず、店のことなど、少しずつ書いていこうと思う。こんな古い喫茶店のページを、はたして誰か見るのだろうか。
今日も夕方、あの人から電話。相変わらず、用があるようで、ない。「変わりないか」「ないよ」で、だいたい終わる。長電話にならないのが、あの人らしい。切れたあとの店が、少しだけ広く感じる。
店の裏に、茶色の子猫が捨てられていた。雨だったので、とりあえず箱ごと店に入れた。家内が「マメみたいね」と言った。豆を挽く音のする店だから、マメ。安直だが、本人(本猫?)は気に入ったようすである。
暑い。思いきって、かき氷をはじめてみた。学校帰りの子どもたちが、宿題を広げて涼んでいく。にぎやかで、よい。氷を削る音というのは、聞いているだけで少し涼しい。マメは冷房のいちばん涼しいところを陣取って、我関せず。
商店街の年末福引きで、うちの店の券を出した方が二等を当てたそうだ。景品は自転車。「つばめで珈琲を飲むと当たる」という噂が立ってくれれば、商売繁盛なのだが。
みなと写真館さんが、店を閉められた。父の代からの付き合いで、うちの開店のときの写真も、あそこで焼いてもらった。ご主人は「ホームページだけは、残しておくよ」と笑っていた。写真屋が、写真だけ残して店を閉めるというのは、なんだか、できすぎた話だ。
家内のプリンを、見よう見まねで作ってみた。固さが、どうしても違う。レシピというものは、書いてある通りに作っても、書いた人の味にはならないらしい。あの人にも電話で「プリンはどうした」と聞かれた。まだ出せない、と答えておいた。
昨夜の台風で、庇(ひさし)が少し破れた。開店のときから使っている深緑の庇なので、張り替えず、繕って使うことにする。物というのは、直しながら使ううちに、だんだん自分の一部になる。
ホームページを作ってくれた学生さんが、この春、街を出て就職するそうだ。最後に、カウンターでブレンドを一杯。「ページの更新のしかた、紙に書いておきましたから」と言ってくれた。その紙は、レジの引き出しに、大事にしまってある。
珍しく、雪。お客はゼロ。こういう日でも、夕方の電話は鳴る。「そっちは雪か」「積もってるよ」「そうか」。それだけの通話に、なぜだか、ずいぶん温まった。
柱時計の調子を、時計屋さんに見てもらった。「よく手入れされてますね。狂いも、ほとんどない」とのこと。父の代から五十年ちかく、よく働いてくれている。長く動いているものには、それだけで、値打ちがある。
このごろ、あの人の電話の声が、少し細い。「歳だよ」と笑っていたが。……こちらも人のことは言えない。マメも、私も、店も、みんな少しずつ古くなる。それでも水曜の夕方は、変わらずに来る。
本町の秋祭り。笛の音が、霧に混じって届く。祭りの帰りに寄ってくれる親子連れで、めずらしく店が埋まった。かき氷の季節でもないのに「かき氷」と言い張る子がいて、往生した。れもんを一つ、こしらえた。
店を空けたあいだに、電話が鳴っていたらしい。留守番電話というものを、近所の電器屋さんが黒電話につないでくれているのだが、機械に吹き込まれた声を聞くのは、直接聞くのと、ずいぶん違う。巻き戻して、二度、聞いた。
クリスマスだからといって、うちの店には何もないのだが、それでも夕方、ケーキの箱を提げたお客さんが、珈琲を一杯だけ飲んでいかれる。ああいう一杯は、淹れていて、うれしい。
松の内が明けて、店を開けた。正月のあいだ、電話は鳴らなかった。年賀状も、来なかった。……忙しいのだろう。そういうことにして、豆を挽く。